クリス・アンダーソンの「ロングテール」  

  

  商業システム研究センター 波形克彦 訳  

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  ★ロングテール(The Long Tail) 

   売上げランキング上位にある数少ないメガヒット商品から巨額の富を絞り取ろうとす          

   るのはやめよう。エンタテインメント経済の将来は、デジタル社会の流れの末端にあ          

   る浅瀬のようなニッチ市場の中にこそあるのだから。                        

                       クリス・アンダーソン(Chris Anderson)          

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 1,10年前の本がアマゾンの推奨で復活                                       

 1988年、ジョー・シンプソン(Joe Simpson)という名の英国の登山家が、「Touching the Void」(訳者註  

 :邦題は『死のクレバス――アンデス氷壁の遭難』、原題は「空間に触れる」の意)と題する、ペルー   

 のアンデス山脈で死にかけたときの痛ましい経験を書いた本を出版した。この本は好評を得たが、   

 適度に売れただけですぐに忘れ去られた。その後、10年ほど経つと、奇妙なことが起こった。ジョ    

 ン・クラカワー(Jon Krakauer)が「Into Thin Air](訳者註:邦題は『空へ一―エヴェレストの悲劇はなぜ  

 起きたか』、原題は「薄い空気の中へ」の意)という登山悲劇に関する別の本を書いて出版界の話    

 題になると、「死のクレバス」が急にまた売れ出したのだ。                            

                                                                

 ランダムハウス社は、この特需を逃さないように新版の発行を急いだ。書店は、「死のクレバス」     

 を「空へ」の隣りに置いて販促を始め、売上げはさらに上昇した。1月(訳者註:この記事の初出は    

 2004年10月)にペーパーバック(文庫)の改訂版が出ると、ニューヨークタイムズ紙のベストセラー・    

 リストに14週間にわたって掲載された。同じ月、IFCフィルムズ社はこの本に基づいたドキュメンタリ   

 ードラマを製作して大きな称賛を得た。結果として、「死のクレバス」は、「空へ」の2倍以上売れるこ   

 とになった。                                                       

 いったい何が起こったのだろうか。要するに、アマゾン(Amazon.com)の"お薦め"効果だ。        

 オンライン書店のソフトウエアは、購買行動中のパターンを認識し、「空へ」が気に入った読者はさ   

 らに「死のクレバス」も気に入るであろうことを示唆した。人々はこの"お薦め"を受け入れ、心から納   

 得し、好意的なレビューを書き込んだ。本がさらに売れることで、推薦はアルゴリズムでさらに増強   

 され、好循環が始まった。                                               

                                                                

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 2、デジタル・エンターメントはノンヒット商品も売れる                               

 特筆すべきは、クラカワーの著書が書店で売れ始めたとき、シンプソンの著書はほとんど絶版に近   

 かったということだ。数年前であれば、クラカワーの読者はシンプソンの本を知ることもなかっただろ   

 うし、仮に知り得たとしても、本を見つけることはできなかっただろう。アマゾンがこの状況を変えた。   

 無限の陳ダ棚スペースと、購買傾向および世論に関するリアルタイム情報とを組み合わせることで、  

 "死のクレバス現象"を生み出したのだ。                                      

                                                                

 これは単にオンライン書店だけにおける効用ではない。メディアとエンタテインメント産業において、   

 ちょうどそのパワーを示し始めている、まったく新しい経済モデルだ。ネットフリックス(Netflix)のイン   

 ターネットDVDレンタルから、ヤフー・ローンチ(Yahoo! Launch)の音楽動画配信、アイチューンズ   

 (iTunes Music Store)やラプソディ(Rhapsody)の音楽配信に至るまで、商品の選択肢をほぼ無限に   

 増やすことは、サービスに次ぐサービスを提供する中で消費者が本当は何をどのように入手したい   

 と思っているのかを明らかにすることにつながる。人びとは、商品カタログの奥深くまで調べ、長大    

 な在庫リストを読み下すが、これは既存のブロックバスターのビデオ店やタワーレコード、バーンズ   

 &ノーブル書店ではとても提供できなかったサービスだ。そして、新しいものを見つければ見つける   

 ほど、ますますそのサービスは気に入られる。多くのひとに踏みならされた道からそれたと感じたと    

 き、人びとは自分の嗜好が、思っていたほどには(あるいは、マーケティング手法や、選択肢の不足、  

 ヒット商品中心の文化によって信じ込まされていたほどには)主流ではなかったことに気づく。       

                                                                

 こうしたオンライン・サービスの販売データと傾向を分析すると、新興のデジタル・エンタテインメント   

 経済は、今日のマス市場とは根本的に異なる方向に進んでいることが分かる。仮に20世紀のエン    

 タテインメント産業がヒット商品に負う部分が大きかったとすると、21世紀はヒットしなかった商品に     

 負う部分が大きくなるといえるだろう。                                         

                                                                

 長いあいだ、私たちは最大公約数的な商品価値を押しつけられ、脳死状態のサマー・ブロックバス   

 ター(訳者註:夏休みシーズンのヒット映画の意)やマニュファクチャード・ポップ(訳者註:20世紀型の  

 大量生産的ヒット曲の意)にさらされてきた。なぜか? 経済原則だ。大衆嗜好に関する仮説の多く    

 は、実際には貧弱な需要供給原理に一致したものにすぎず、非効率的な物流に対して市場が反    

 応した結果ともいえる。                                                 

                                                                

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 3、地域内顧客の制約がなくなる                                           

 重要な問題は一一それが問題だとすればの話だが一一私たちが物質的な世界に住んでいるとい    

 うことであり、また最近まではエンタテインメント・メディアもそうだったということだ。しかし、この世界     

 は、エンタテインメントに対して二つの重大な制約を加えてしまう。                        

 第一に、ローカル・オ一ディエンス(地域内顧客)の必要性だ。平均的な映画館は、2週間の上映期    

 間に少なくとも1500人を集客できる見込みがなければ映画を上映しないだろう。それは本質的に     

 スクリーンの賃貸料に等しい。平均的なレコード店は、CDの1タイトルを店頭に置くためには少なく    

 とも1年に2枚を売る必要がある。それは棚スペースの0.5インチの賃貸料に等しい。DVDレンタ      

 ル店やビデオゲーム店、書店、ニューススタンド(街頭売店)なども同様だ。                  

                                                                

 どの場合でも、小売り業者は維時するために十分な費用を確保できるコンテンツしか扱わない。し    

 かし、どれも限られた地或人口からしか得られない一一典型的な映画館ならばおそらく半径10マ     

 イル(≒16km)圏内、音楽や書店ではさらに狭く、ビデオレンタル店ならばさらに狭く(半径1〜2マイ    

 ルほど)なる。たとえば、優れたドキュメンタリー映画を上映するためには、全米に50万人の想定観    

 客がいるというだけでは不十分で、メリーランド州のロックヴィルの北部に何人の観客が見込めるか、   

 カリフォルニア州のウォルナット・クリークのショッピング・モールではどうか、ということが重要なの      

 だ。                                                              

                                                                

 全米でみれば潜在的に多くの、熱狂的ともいえる想定観客をもちながら、こうしたハードルをクリア    

 できない優れたエンタテインメント作品は数多く存在する。一例を挙げれば、「The Tripplets of      

 Belleville」(訳者註:邦題は「ベルヴィル・ランデブ一」)は、関係者から高い評価を得て、ことしのアカ   

 デミー賞長編アニメーション部門にノミネートされたが、全米でわずか6か所の映画館でしか上映さ    

 れなかった。より著しい例は、ボリウッド(Bollywood)と呼ばれるインド映画の苦戦だ。毎年、インドの    

 映画産業は800本以上の長編映画を製作している。米国内には推定170万人のインド人がいる。     

 ところが、アマゾンのインターネット映画デ一タベース(Internet Movie Database)でトップクラスにラ     

 ンキングされるヒンズー語映画「Lagaan:Once Up On a Time in India」(訳者註:邦題は「ラガーン」)    

 は、2か所の映画館で上映されただけで、米国内で配給に至ったひと握りのインド映画のひとつに    

 すぎなかった。物理的スペースという制約のなかでは、あまりに広く散在する観客はまったく存在し   

 ないに等しい。                                                       

                                                                

 ほかにもある物理的世界の制約は物理的存在そのものだ。無線周波スペクトルを利用できるのは    

 限られた数のラジオ局だけだし、同軸ケーブルも限られた数のテレビ局だけ。また、番組編成は当    

 然1日24時間という上限がある。放送技術の宿命は、限られた資源の放蕩な消費者となる点にあ     

 る。結果として、ある地理的圏内にいる膨大な視聴者集団を形成しなければならず、潜在的にある   

 小さなコンテンツの数々を提供するということは、もうひとつの高いハードルとなってしまう。         

                                                                

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 4、ヒット志向経済は全ての人を満足できない                                    

 エンタテインメント産業は、過去1世紀において、こうした制約に対し安易な解決策を提供してきた。    

 ヒット作は、劇場を満員にし、売り切れて棚を空にし、視聴渚をダイヤルやリモコンに釘づけにした。    

 これは決して悪いことではない一一確かに、ヒット作は人間心理に組み込まれたものであり、社会     

 的順応性とクチコミの相乗効果だと、社会学者は言うだろう。そしてなるほど、健全なヒット作の数々    

 が存在し、偉大な楽曲や映画、書籍は大きな感動を大聴衆に与えている。                  

                                                                

 しかし、ほとんどの人びとは単なるヒット作以上のものを求める。人々の嗜好は、主流とされるものか    

 らどこかに外れ始め、そして選択肢を広げれば広げるほど、それにさらに引き付けられていく。だが    

 不幸にも、最近の数十年間で、産業界の熱望を汲み上げて開発されたマーケティング手法により、    

 こうした選択肢の数々は周辺に押しやられてきた。                                 

                                                                

 ヒット志向の経済は、すべての人びとにすべての物を運ぶための十分な余裕がなかった時代の申     

 し子だ。すべてのCDやDVD、ゲ一ムのための十分な棚スペースはなかった。すべて映画を上映      

 するための十分なスクリーンもなかった。すべてのテレビ番組を放送するために十分なチャンネル     

 も、すべての音楽を演奏するために十分な電波もなかったし、そもそもどちらの番組編成によって     

 もすべてを電波に乗せるために十分な放送時間は存在しなかった。                       

                                                                

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 5、ジュークボックスの1万曲は99%に需要がある                                   

 これは不足の世界だ。現在は、インターネットを利用したオンライン配信とオンライン販売により、豊     

 富の世界に突入している。この違いは非常に大きい。                                

 どれだけ違うかを見るために、15万曲を超える演奏端末や驚くべき統計手法を可能にしたデジタ     

 ル・ジュークボックスを展開する、イーキャスト(Ecast)のCEO、ロビー・ヴァン=アディベ(Robbie        

 Vann-Adibe)を訪ねてみよう。ヴァン=アディベ氏は、訪問者が常にまちがえるという質問で、その答    

 えのヒントを出す。「ネットフリックスやアイチューンズ、アマゾンといったオンライン・メディア店で、最    

 低月に一度は貸し出しや販売されるタイトルは、上位1万タイトルのうち何パーセントを占めると思     

 いますか?」。                                                        

 ほとんどの人々は20%と思うだろう。というのも、そう推測するように教育されてきたからだ。パレート      

 の原理(イタリアの経済学者、ヴィルフレド・パレートが1906年に概念を発表した)として知られてい      

 る80対20の法則はあまりにも有名だ。メジャーな製作会社による映画の20%だけがヒット作となる、      

 同様にテレビ番組やゲーム、書籍もすべて20%しかヒットしない。米国レコ一ド工業会によれば、メ      

 ジャー・レーベルによるCDの場合はさらに割合が低く、ヒット作となるのは10%未満だという。         

                                                                

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 6、80対20の法則はヒット作の割合で売上ではない                                  

 しかし、正解は99%だとヴァン=アディベは言う。上位1万曲のほぼすべてに需要があるというのだ。      

 彼は自社のジュークボックスによる統計でこれに気づいた。従来のジュークボックスには絶対に入     

 っていないような曲に、毎月、何千もの人々がお金を払いリクエストするのだという。               

 ヴァン=アディベに質問された人びとは、答えが二つの面で直観に反しているので正答できない。      

 第一に、エンタテインメント産業での20%の法則はヒット作の割合で、売上げに関するものではない      

 こと。私たちはヒット作中心主義にこだわりすぎ、もしヒット作でなければ、それはお金にならずコスト     

 の回収につながらないと思ってしまう。言いかえれば、ヒット作だけが存在して同然だと考える。しか     

 し、ヴァン=アディベのほか、アイチューンズやアマゾン、ネットフリックスの経営者たちは、ニッチ商     

 品もお金になることに気づいたのだ。そして、こうしたニッチ商品は非常に多く存在するため、そこ      

 へ向かうお金が巨大な新市場を急速に立ち上げた。                                 

                                                                

 アイチューンズのような純粋なデジタルサービスの場合には、棚スペースの賃貸料なしで、また製      

 造原価や物流コストもほとんどなしで、ヒット商品と同じマージンを伴ってニッチ商品が売れる。ヒット     

 とニッチは等しい経済関係であり、どちらも単にオンデマンド対応のデータベースに格納しておけ      

 ば、どちらも等しい扱いを受ける。人気があるかどうかはもはや収益を独占する要因とはならない。      

                                                                

 間違った回答の第二の理由は、産業界は人々が何を望んでいるかについて貧弱な感覚しかもっ      

 ていないということだ。確かに、私たちは需要を知るための貧弱な方法しか知らない。たとえ          

 ば、ウォルマートやほかの主要小売り業者が取り扱わない商品には需要がほとんどないと考え        

 る。もし人々がそれを望めば、まちがいなくそれは売り出されるだろう。残りの下位80%の商           

 品は、せいぜい準商品扱いだ。                                              

                                                                

 しかし、ウォルマートと同じくらい平等主義に立てば、それは非常にエリート主義といえる。           

 ウォルマートは、その販売品目を維待し、かつ十分利益を得るためには、少なくとも10万枚のCD       

 を売らなければならないが、この販売量に貢献するのはすべてのCDの1%未満だ。               

 「Fountains of Wayne」や「Crystal Method」のアルバムや、ほかの非主流商品を買いたい6万人      

 の人びとはどうしたらよいのか。彼らは、ほかのどこかへ行かなければならない。書店やメガプレック      

 ス(megaplex)、ラジオ、ネットワーク・テレビにも、同じような需要がある。マス市場を品質や需要と同      

 一視するのは、市場がしばしば親近感のある実用的広告によって表現されたり、幅広い訴求がさ       

 れる場合だ。私たちは、本当は何を望んでいるのか? それを発見しようとする試みは、今まさに始      

 まったところだ。                                                        

                                                                

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 7、音楽配信サービスの73万曲は月1回転                                        

 不足の経済というフィルターを通さずに私たちの本当の嗜好を知るために、リアルネットワークス        

 (RealNetWorks)が運営する登録制音楽配信サービスであり、現在73万5000曲を超える楽曲デー      

 タをオンラインで提供する、ラプソディ(Rhapsody)の事例を見てみよう。                       

 ラプソディの毎月の統計をグラフにすると、どこのレコード店でも見られるような指数法則による需要      

 曲線が得られ、上位曲に膨大なニーズが集まり、それほど人気がない下位曲へ向けて急速に減少      

 する。しかし、上位4万曲より下の軌跡を探ると、実に興味深いことが起こる。ちなみに、4万曲とい       

 うのは、平均的な従来型レコード店の流動在庫(販売見込みがある取り扱いアルバム)の数に等し       

 い。ちなみに、世界中にあるウォルマートでは、流動在庫はゼロに近い。というのは、それ以外の       

 CDは取り扱わないからだ。または、そのような非主流商品を地域の潜在顧客が見つけることはな       

 いか、そもそも来店することがないからだ。                                         

 しかし、ラプソディの需要曲線はまだ終わらない。上位10万曲は最低でも月に1回はダウンロード        

 されるが、これは上位20万曲、上位30万曲、上位40万曲についても同じことが言える。ラプソディ       

 が収録曲ライブラリーを追加するのと同じくらいの速さで、ひと月あたりではわずかな人数とはいえ、     

 全米のどこかでその曲を見つける聴衆がいるのだ。                                   

                                                                

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 8、これがロングテールだ                                                   

 ロングテールの上ではすべてを見つけ出すことができる。過去のカタログがそろっているようなもの       

 なので、旧作のアルバムが長年のファンに懐かしがられたり、新しいファンに発見されたりする。ライ      

 ブ版、B面版、リミックス版のほか、とんでもないカバーバージョンもあったりする。ジャンル分けした       

 中のジャンル、さらにその中のジャンルを辿ると、無数のニッチ作品が見つかる。80年代のヘアメタ       

 ル・バンドやアンビエント・ダブといったジャンルだけでタワーレコードが埋め尽くされている姿を想       

 像してみるといい。かつては輸入版の棚に並べられて高く売られていたような外国のバンドも、タワ       

 ーレコードまで到達することもなかった、バンド名どころかレーベル名すら知られていないような無       

 名のバンドも、そこにはある。                                                 

                                                                

 もちろん、多くのガラクタもある。しかし、ヒット・アルバムに入っていてラジオで流れるような曲の中       

 にもガラクタは多い。CDならば飛ばして聴く必要があるが、オンライン販売ならば、そうした曲には       

 到着しないようによくできた検索方法で簡単に避けることができる。CDだと、ガラクタ1曲にもアル        

 バム1枚15ドルの12分の1くらいのお金をかけてしまうことになるが、オンラインだと、ガラクタはサ         

 ーバー上に無害に存在するだけで、あとは歌の良さや楽曲自身の価値を市場が判断して無視す       

 るだけだ。                                                            

                                                                

 ロングテールの本当に驚くべき点はその規模の大きさだ。ヒット作以外をロングテール上に集めれ       

 ば、ヒット作より大きな市場ができる。書籍を例にとれば、平均的なバーンズ&ノーブルの店舗は13       

 万タイトルを取り扱っている。一方、アマゾンの書籍売上げの半分以上は上位13万タイトル以外の       

 本だ。この意味を考えてみてほしい。アマゾンの統計を基準とすれば、一般書店で売られることの        

 ない書籍の市場規模は、売られている書籍の市場より大きいのだ(図「ロングテールの構造」           

 (Anatomy of the long tail)参照)。言葉を換えれば、もし不足の経済という状況を乗り越えることがで       

 きれば、潜在的な書籍市場は現在の2倍はあることになる。ベンチャーキャピタリストで元・音楽産        

 業コンサルタントのケヴィン・ローズ(Kevin Laws)は、こう表現する。「最大の儲けは、最小の販売の       

 中にこそある」。                                                         

                                                                

 エンタテインメント・ビジネスにおけるほかのすべての面についても、ほぼ同じことが言える。オンラ        

 イン・ビジネスとオフライン・ビジネスをただ比較してみればいい。平均的なブロックバスターの店舗       

 は3000タイトル未満のDVDしか取り扱っていない。一方、ネットフリックスでレンタルされるDVDの        

 5分の1は、上位3000タイトル以外だ。ラプソディでは、月あたりの上位1万曲よりそれ以外の曲の        

 ダウンロード数の方が多い。どちらの場合も、従来の店舗販売を行う小売り業者の外側に位置する       

 市場の規模の方が大きく、またさらに拡大しつつある。考えてみれば、もっとも成功したインターネ       

 ット企業のほとんどは、何らかの形でロングテールを活用している。たとえば、グーグル(Google)は       

 小さな広告主からほとんどの収益を上げている(広告におけるロングテールといえる)。また、イーベ       

 イ(eBay)はほとんどテールの部分だけ、つまりニッチやレアものだけで成り立っている。地理的およ       

 び規模的な制約を克服することによって、ちょうどラプソディとアマゾンと同じように、グーグルとイー       

 ベイも新市場を発見し、その存在を拡大したのだ。                                    

                                                                

 これがロングテールの威力だ。その先駆けとなった企業は、三つの大きな教訓を残した。これを、        

 新しいエンタテインメント経済のための新法則と呼ぼう。                                 

                                                                

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 9、第1の法則:すべての商品を入手可能に                                        

 ドキュメンタリー映画の愛好者にとっては、ブロックバスターのビデオレンタルはあまり向いていない       

 だろう。ほかのビデオレンタル店も同様だ。というのは、世の中にはあまりにも多くのドキュメンタリー       

 映画があり、物理的な陳列棚の上にそれらを数ダース以上並べることは通常しないからだ。代わり       

 に、ネットフリックスを利用すれば、1000タイトルを超えるドキュメンタリー映画の中から探すことがで       

 きる。こうした豊富な在庫は、ドキュメンタリー・ビジネスの拡大に貢献している。昨年、ネットフリック       

 スは、小児性愛の主張によって崩壊した家族に関するドキュメンタリー映画「Capturing the            

 Friedmans」で、全米のレンタル料の半分を売り上げた。                                 

                                                                

 ドキュメンタリー映画の"通"でもあるネットフリックスCEOのリード・へ一スティングズ(Reed Hastings)       

 は、アメリカ人兵士とベトナム人女性の間に生まれた子どもに関するドキュメンタリー映画「Daughter       

 From Danang」を製作したPBS社に、新発見ともいえるオンライン販売の影響力を最大限にPRした。       

 2002年、このドキュメンタリーはアカデミー賞にノミネートされ、サンダンス映画祭では最優秀ドキュ       

 メンタリー映画賞を受賞。しかし、PBSにはDVDでそれをリリースする計画がなかった。へ一スティ        

 ングズは、ネットフリックスによる独占契約をPBSが了承すれば、DVDの製作と流通を請け負うこと        

 を申し出た。今や、「Daughter From Danang」は、ネットフリックスのドキュメンタリー・ランキングの上       

 位15位に一貫してランキングされている。もともと存在しなかったかもしれない何万ものドキュメンタ       

 リー愛好家の市場を掘り起こすことに成功したのだ。                                   

                                                                

 従来のDVD販売チャネルには、同じ程度魅力的なジャンルもあれば、無視されてきたサブジヤン       

 ルもある。外国映画、アニメ、独立系製作会社による映画、英国のテレビドラマ、アメリカのテレビ・       

 コメディーの旧作などだ。こうしたかつて顕在化していなかった市場は、ネットフリックスに大きなレ       

 ンタル収益をもたらした。ボリウッド作品だけでも、レンタル本数は毎月ほぼ10万本にのぼる。型破       

 りなコンテンツも入手可能とする手法は、ネットフリックに新しい顧客層を連れてきた。顧客獲得のコ      

 ストを削減するものはすべて、会員制ビジネスにとっては金のなる木だ。したがって、第1の教訓は       

 「ニッチを取り込め」ということになる。                                            

                                                                

 ネットフリックスは、分散する顧客を集積することで、映画館やビデオショップでは収益があがらなか      

 った分野でのビジネスに成功した。「Doctor Who」をレンタルする人は毎月数千人いるものの、この       

 顧客がひとつの市域に固まっているのか分散しているのか、ひとつの町にひとりなのか、全米にわ       

 たるのかといった問題は重要ではなく、ネットフリックスに対する経済効果に変化はない。要するに、      

 物理的なスペースの制約をなくすことに成功したのだ。重要なことは、顧客がいる場所ではなく、何       

 人の顧客が特定のタイトルを探しているかということでもなく、場所にかかわらず全体で何人いるの        

 かということだけだ。                                                       

                                                                

 その結果、これまで買い手を見つける機会が少なかった商品のほとんどに販売する価値が見出さ        

 れた。これは、エンタテインメント産業が今とっている方法とは逆の考えだ。今日、旧作映画のDVD      

 化の可否や時期に関する決定は、想定需要の積算結果のほか、解説や追加収録コンテンツの有        

 効性、あるいは周年事業、賞の受賞、世代の移行期(たとえばディズニーは、ほぼ10年ごとに子供       

 のニューウェーブとしてその旧作を再公開している)といったマーケティング機会に基づいて判断さ       

 れる。これが高いハードルとなって、かつて作られた映画の一部しかDVD化されていない。            

                                                                

 このビジネスモデルは本当の意味での古典を未来に残すためには意味をなすかもしれないが、取       

 り残されたほかのすべての作品にとっては迷惑このうえない。対照的に、ロングテールのアプロー        

 チは、余計なマーケティングなしで、DVDをただ集積して巨大なアーカイブを作るだけだ。それを        

 シルバー・シリーズと呼んで、価格を半分に下げよう。インディーズ映画もそうしよう。今年、約6000        

 本の映画がサンダンス映画祭に応募申請した。このうち、255本の申請が受理され、ちょうど2ダー        

 ス(24本)が配給に至ったが、ほかの作品を見ようと思ったらサンダンスへ行かなければならない。         

 毎年255本の映画をDVD化し「サンダンス・シリーズ」としてリリースしたらどうだろうか。ロングテー         

 ル経済では、リリースするより評価するほうが高コストだ。ぜひ実行してほしいものだ。                

                                                                

 音楽産業についてもまったく同じことが言える。旧作カタログにあるすべてのタイトルをリリースする        

 権利を速やかに一般に開放すべきだ。深く考えずに、自動的に、そして全産業規模で。(これは世       

 界的に、限られた少数ではなくかなり多くの弁護士を必要とする、極めてまれな分野のひとつとい        

 える。) ビデオゲームも同様だ。最近のパソコンでプレーできる古典的ゲーム機の再現版を含む旧       

 作ゲームのリバイバルは、初期のゲーム機世代(joystick generationジョイスティック・ジェネレーショ       

 ン)の郷愁感により成長している市場現象だ。ゲーム出版社は、新作をリリースした3年後にはすべ        

 てのタイトルを99セントでダウンロードできるようにすればいい。サポートも保証もパッケージングも        

 不要だ。                                                              

                                                                

 もちろん、こうしたことはすべて書籍にも当てはまる。新刊書と絶版本の線引きはすでにぼやけてい       

 る。アマゾンをはじめとするオンライン書店は、中古本を新品と同じように簡単に見つけて買うことを        

 可能としてきた。書店を地哩的制約から解き放つことによって、オンライン書店は少量品の流動性        

 市場を創出し、自社のビジネスだけでなく総体的な中古本の需要を劇的に増加させている。オン        

 デマンド印刷技術が可能とした大幅なコストダウンも手伝って、どんな本でも常時販売可能とするこ       

 とは当然になっている。いまの子どもたちが絶版という言葉を知らずに成長するということはまちが        

 いないだろう。                                                           

                                                                

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 10、第2の法則:価格を半分に、さらに安く                                          

 アップルのアイチューンズのおかげで、音楽のダウンロードは1曲99セントが標準となった。しかし、        

 この価格は適正だろうか?                                                    

                                                                

 レコード会社に尋ねれば、それは安すぎると答えるだろう。たとえ、1曲あたり99セントがCDの価         

 格からみて適当だったとしても、ほとんどの消費者は1枚のアルバムから1曲か2曲を買うだけで、         

 CD収録の全曲は買わないからだ。事実、デジタル音楽産業は、1950年代のシングルス中心のビ        

 ジネスモデルに回帰しているようにみえる。したがって、レコード会社からすれば、アルバム販売に       

 よる収益が減少した分、消費者は1曲ごとに購入する特権にもっと対価を支払うべきということにな        

 る。                                                               

                                                                

 反対に、消費者に尋ねれば、99セントは高すぎると答えるだろう。カザー(Kazaa訳者註:ナップスタ        

 ーに似たピア・トゥ・ピア型ファイル共有ソフト)の無料ダウンロードに慣れた人にとっては、まず最初       

 に99セントありきと映る。著作権侵害の問題を別にすれば、99セントという価格は経済的正義に合        

 わない。パッケージングや製造、流通、棚スペースなどの諸経費をまったくかけずに楽曲をオンライ       

 ン販売することで、レコード会社のコストは明らかに削減されている。それなのに、なぜもっと安くで       

 きないのか?                                                            

                                                                

 驚くべきことに、音楽のオンライン販売のための適正価格に関する経済的分析はほとんどされてい        

 ない。というのは、販売価格は市場動向によってではなく、レコード会社の半カルテルによって設定       

 されているからだ。レコード会社は、小売り業者による価格設定の余地をほとんど残さずに、1曲あ        

 たり約65セントの卸値を課している。                                             

 この卸値は、もっとも恐れられている「チャンネル・コンフリクト」(販売チャネルの衝突)を回避するた       

 めに、CDの価格とほぼ一致するように設定されている。レコード会社は、もしオンライン楽曲販売         

 により低く値をつければ、CD小売り業者(いまだにビジネスの大部分を占める)が反抗するのではな       

 いか、あるいは、ただでさえ進んでいるレコード店の廃業の動きがさらに加速するのではないか、と        

 いうことを恐れている。いずれの場合も、重大な混乱を招くことになり、既存のレコード会社を恐怖        

 に陥れることになるだろう。新しく前面に出てきたオンライン・ビジネスよりも、従来のCDビジネスを        

 見据えた後ろ向きな視点から価格計算を行っているのは当然ともいえる。                      

                                                                

 しかし、もしレコード会社がこうした自己防衛をやめてしまったらどうだろうか。音楽経済に対する勇        

 敢な挑戦者は、アイチューンズのサーバーに単に楽曲データを収納しておく費用が実際にいくら        

 かかるかを計算するだろう。結果は驚くべきものとなる。                                 

                                                                

 まず、小売りチャネルの不必要なコスト、つまりCDの製造と流通、小売り諸経費を除外する。アー        

 ティストの発掘や制作、マーケティングに必要なコストは残存する。クリエイティブ部門やレコード会       

 社のスタッフが働くための現状を維持する必要があるからだ。30万枚売れるポピュラーなアルバム        

 にかかる創造的な業務のコストは、1枚のディスクあたりで約7.50ドル、1曲あたり約60セントとなる。        

 これに、オンライン楽曲販売に必要なコストの実費を加算する。これは、無視できるほどの記憶装        

 置および帯域幅のコストではなく、ほとんどがオンライン・サービスの構築と運営に必要な経費だ。        

 時価でみると、1曲あたり約17セント。この計算によれば、オンラインで販売されているヒット曲は          

 25%の高値が付けられている。デジタル配信のコストを考慮したとしても、1曲あたり79セントが適正        

 価格といえそうだ。チャネル・コンフリクトの問題はわきに置くとして、もし物理的な流通を前提とする       

 製造コストがオンライン化により削減できるのであれば、販売価格にも反映されてしかるべきだ。物       

 理的コストではなく、デジタル的コストに基づく価格設定である。                            

                                                                

 消費者にとってのこの朗報が、音楽産業を傷つけるものとは限らない。安ければ、もっと売れるかも       

 しれないからだ。昨年、ラプソディは弾力的な需要対応の実験を行ったが、これは今後の方向性を        

 示唆するものとなった。短い期間を設定して1曲あたり99セント、79セント、49セントの3種類の価          

 格で販売したところ、99セントの半額に近い49セントの楽曲販売が通常の3倍の売上げとなった          

 のだ。                                                               

                                                                

 レコード会社がまだ65セントの卸値を課しているので、音楽出版社への著作権料8セントを払うと、        

 ラプソディはこの実験で赤字を出したことになる(古いジョークにあるとおり、質より量で勝負だ)。し         

 かし、ロングテール上にあるコンテンツの多くは、すでに費用回収済みの旧作だ(すでに販売の対         

 象外となっているかもしれない)。あるいは、レコード会社がほとんど投資せず安く製作できたバンド        

 の演奏や、ライブ版、リミックス版、その他あまりコストをかけずに入手したコンテンツばかりだ。           

                                                                  

 こうしたニッチ商品はヒット作を作るより少ないコストで済んでいるのに、なぜ安く提供できないのだ        

 ろうか? テールの先に行けば行くほど、人気(市場ともいえる)が小さくなるとともに価格も下がるとい        

 うことを想像してほしい。回転率の悪いコンテンツの大部分についてレコード会社が卸値を下げると        

 いうことだ。2層または3層構造の価格構成においてさえ驚くべき効果が期待できるだろう。また、         

 うしたコンテンツのほとんどはレコード店では入手できないので、チャネル・コンフリクトの危険性は        

 大幅に低下する。ここでの教訓は、「低価格で消費者をテールの末尾に導け」ということになる。          

                                                                

 レコード会社はどこまで安くするべきか? 答えは、音楽消費者の心理学的な分析により導くことが        

 できる。音楽ファンが直面する選択は、アイチューンズやラプソディから何曲買うかということではな        

 く、カザーや類似のピア・トゥ・ピア・ネットワークから無料でダウンロードすることをやめて何曲有料        

 で買うべきかということだ。消費者は、無料で入手できる音楽が実際には無料でないことを直観的         

 に知っている。法に違反する危険性に加え、収集にかかる時間を浪費することになる。作品名など        

 のラベリングに一貫性はなく、品質もバラバラ、また楽曲データの約30%はさまざまな理由により不         

 完全なものだ。スティーブ・ジョブス(Steve Jobs)がアイチューンズ・ミュージック・ストアを設立したこと       

 で、音楽愛好家はカザーからダウンロードするよりはお金を少し節約できたかもしれない。「最低賃        

 金の下で働いている」ようなものだ。また、海賊版の品質が気になるという点で、音楽についていえ         

 ることは映画とゲームでは2倍強調できる。ウィルスの危険性が高いうえに、ダウンロー一ドするの         

 に非常に長い時間を要するからだ。                                              

                                                                

 無料には、利便性の心理的な価値というコストがかかる。今こそ、「無料にその価値はない」と気づ         

 き財布が開く瞬間だといえる。正確な金額は、平均的な大学生が利用可能な自由時間に彼らの銀        

 行預金残高を掛けた値に等しいといえよう。彼らが音楽に費やすコストを考えてみると、おそらく最        

 低でも1曲あたり20セントだろう。これは、ロングテールの商業的世界とアングラ世界の間の境界線         

 といえる。二つの世界は平行して存在し続けるだろうが、シェアを最大限にするために20〜99セン         

 トの間で商機を狙うロングテール思想家にとって重要な問題となる。納得できる値付け、使い勝手         

 の良さ、安定した品質を提供するによってはじめて、無料と競争することができるのだ。               

                                                                

 おそらく、最善の方法は個々の楽曲への課金をやめることだろう。個人資産運用会社がイーミュー        

 ジック(eMusic)を所有するダニー一・スタイン(Danny Stein)は、将来のビジネスは所有権という発想        

 から完全に離れる必要があると考えている。無線と有線を問わずブロードバンドを活用したユビキタ        

 ス社会において、より多くの消費者は、かつて作られたすべての曲をオンデマンドで演奏可能な万        

 能ジュークボックスを求めるようになるだろう。それらの曲のうちのいくつかは、ラジオのように広告で        

 サポートされリスナーに無料で提供される。ほかは、イーミュージックやラプソディのように、会員制         

 サービスとなる。現在のデジタル音楽経済は、個人が所有する楽曲の有料ライブラリーという形態と        

 ともに、アイポッド(iPod)によって支配されている。しかし、ネットワークが進化するにつれて、音楽が        

 無制限に流される形態の相対的な経済的利点が、広告スポンサー制と定額料金制(たとえば月          

 999ドルで利用無制限)とにかかわらず、市場を変化させていくだろう。小売り音楽モデルの棺に釘         

 を打つのだ。                                                            

                                                                

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 11、第3の法則:探すのを助ける                                                 

 1997年には、マイケル・ロバートソン(Michael Robertson)という名の企業家が、古典的なロングテー        

 ルともいえるビジネスを始めた。エムピースリー(MP3.com)と呼ばれるサービスで、誰でも利用可能         

 な音楽ファイルを誰でもアップロードできるというものだ。このアイデアは、レコード会社を経由せず、        

 アーティストがリスナーに直接楽曲を届けることを可能とした。エムピースリーは自分の曲をサイト上        

 で宣伝するバンドの広告料金で利益を上げ、レコード会社の横暴は阻止され、無数のヒット作の花         

 が咲くはずだった。                                                         

                                                                

 結果的に多くのユーザーが商用音楽を違法にアップロードしてファイルを共有し、レコード会社が         

 エムピースリーを訴えるに至ったという事実をさておけば、このビジネスモデルはその意図した目的         

 が故に失敗したといえる。売れていないバンドは新しい聴衆を見つけることができず、また独立系          

 の音楽がメジャーになることはなかった。エムピースリーは、よく分からないほとんど悪質な音楽が          

 未分化のまま集積されたという、その事実に対してのみ評価を得た。                           

                                                                

 エムピースリーに内在した問題点は、それが単なるロングテールだったということだ。主流にあるか         

 多くの人気を得ている商用音楽を提供するためにレコード会社とライセンス契約を結ぶことをしな          

 かった。したがって、消費者がサービスを使うきっかけとなる導入ポイントがなく、将来広がるかもし         

 れない周知の要素にも欠けていたのだ。                                            

                                                                

 ヒット作だけを提供することもまちがいだ。苦戦しているケーブル会社のビデオ・オン・デマンド・サ          

 ービスについて考えてほしい。あるいは、テレビ局が運営するビデオダウンロード・サービスのムー         

 ビーリンク(Movielink)について考えてほしい。供給者の過剰な制約と高コストにより、限定的なコン         

 テンツの提供しかできずに苦しんでいる。ほとんどの場合、最近リリースされたわずか100本程度の         

 番組しかない。エンタテインメント経済を動かす力を発揮するためには、消費者行動を変化させる          

 のに十分な選択肢が必要だ。                                                   

                                                                

 これとは対照的に、ネットフリックスやアマゾン、商用音楽サービスの成功は、需要曲線の両端が必         

 要なことを示している。非主流の作品を集めた巨大なライブラリーは独立して存在するが、ヒット作          

 はまず第1に消費者を引きつける際に役立つ。成功するロングテール・ビジネスでは、その後、好          

 き嫌いの判断に続いて、未知の作品への興味をあおり、消費者をテールの先ヘガイドするのだ。          

                                                                

 たとえば、ラプソディの正面のスクリーンはブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)の作品が掲げられ         

 ている。彼女の作品リストの隣りには「同様のアーティスト」(similar artists)のボックスがある。その中         

 のひとつはピンク(Pink)にリンクしている。それをクリックし、聞いた曲に満足すれば、今度はピンク          

 の「同様のアーティスト」を聞いてみるかもしれないことに疑いはないだろう。また、「まちがいなしに          

 お薦め」(No Doubt)のページのリストには、数人の影響された人」(followers)と「影響を与えた人」           

 (influencers)が含まれているが、その最後には1980年代の英国コベントリー出身のスカ・バンド「セ         

 レクター」(Selecter)が載っている。ラプソディは、たった3回のクリックで、ブリトニー・スピア一ズのフ         

 ァンをレコード店でほとんど見つけることができないアルバムを視聴するよう勧誘できるのだ。             

                                                                

 ラプソディは、こうした勧誘を人間のエディターと自動的なジャンル・ガイドのコンビネーションで行          

 っている。ネットフリックスでは、レンタル顧客の60%がほかの利用者が書き込んだ推薦文を通して          

 来るといい、アマゾンでは、閲覧ページと購入のパターンを示す(「この商品を買った人はこの商品          

 も…」)コラボラティブ・フィルタリングで同様の勧誘を行っている。どの場合でも狙いは同じで、ロン          

 グテールの先に顧客を駆り立てるために「お薦め」(recommendations)を使っているのだ。               

                                                                

 これは、プッシュ(押し出し)型とプル(引き込み)型の、あるいは大衆向け放送と個別配信の間にある         

 違いともいえる。ロングテール・ビジネスは、マスマーケットに向けてカスタマイズ情報を代案として          

 提供することで、消費者を個人として扱うことができるのだ。                                  

                                                                

 この利点は広く拡張できる。エンタテインメント産業自体にとって、「お薦め」は映画の小品や非主           

 流の音楽が新たな聴衆を見つけることを可能にし、マーケティングの著しく効率的な方法となる。消         

 費者にとっては、良い「お薦め」に従うことが不必要な情報に対する雑音対策となり、音楽や映画に          

 対する情熱を喚起するだけでなく、エンタテインメント市場全体に対する興味を拡大することにもつ          

 ながる。平均的なネットフリックスの顧客は、月に7本のDVD(オフラインショップでの3倍の割合)            

 をレンタルするという。また、すべての文化的利益は多様性に起因するので、流通能力が追いつか          

 なかった1世紀の穏やかな影響力を覆し、ヒット作の横暴に終止符を打つことになる。                  

 これがロングテールの威力だ。その時が、今まさに来たのだ。                                 

                                                                

 出典: http:/www.wired.com/wired/archive/12.10/tail.html                                  

                                                                

 ※本稿は、米『Wired(ワイヤード)』誌2004年10月号に掲載された、同誌編集長クリス・アンダーソ           

 ン(Chris Anderson)の執筆記事「The Long Tail」の全文を、インターネットに公開されているテキスト          

 に基づいて翻訳したものである。                                                  

                                                                

                                     商業システムセンター 波形克彦 監訳          

    

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